笑ったりなんかしないでよ


泣き顔がむちゃくちゃ美しい人がいて、
別に泣かせたりはしなかったけど、いつも一緒にいるときこのひと何かのはずみで泣いたりしないかな、とずっと考えていた。
うっかりぽろりと涙を見せた日には、胸の鐘の音が打ち鳴らされっぱなしで困った。鳴らされすぎてもはやぶっ壊れた。勘違いしそうになるくらい、情欲をかき乱される泣き顔だった。
しばらく会わなくてふと再会した日、誰かの隣でにこにこ笑ってるそのひとを見て心底がっかりした。
隣にいる誰かさんに、きっとあなたはこの人の一番美しい顔をまだ知らないんでしょうね、と意地悪く耳打ちしたくなるくらい。
しゃくりあげ、手のひらを泣きはらした瞼に押当て、言葉にならない声をあげていた彼女が今はふつーの顔して笑ってる。



本当に諸行無常だとおもった。
変わらないものなどなにもない。
でもきっとその美しい泣き顔を、他の誰かにもほいほい晒していたらそれはそれで不愉快なんだろうな。
欲張りでごめんなさい。