欲求

この人の物語を書きたいなと思うひとに出逢ってしまい頭の中にエピソードが少しずつ流れ込んでくる。きっと、根気よく書き上げたら長い話になる気がする。けれどまだまだ書き慣れていなくて、ぼんやりした形しか浮かんで来ない。表現したいことが、描写したい場面が浮かんでいるのに形にするのがこんなにも困難で苦しくて辛いなんて、それでもやりたいと思うなんて、どうしようもない。井戸掘りのようだ。水が勢い良く、もしくはじんわりと染みでて井戸がなみなみと満たされその水面に白い満月が映るほどまでにわたしはまだ手を休められない。掘り続けなきゃ。疲れても、泥だらけでも、暗くて何も見えなくても。
自分の考えや、性格、そうしてあまり人に話したくはない粘膜のような柔らかい部分のことも、事細かにわかりやすく描写しなければいけない。そうする必要があるから。そうしないとこの話は完成しないから。私の弱い部分を全部さらけだすための話。けれど私の本当の話じゃない。色んな出来事が、繋ぎ合わされて、私というフィルターを通して出来上がるであろう違う世界のこと。私は私の弱点を、自分で、何度も、ナイフで突きながら、それでも尚書く手を止めずにいなければ。じぶんを知るって、そういうことなのかな。私にとってはきっとそうで、どれだけ血を流しても形にして、ひとつの世界にして、知らなきゃいけないことが確かにある。
目を背けたくなる様なことがあってもそれを受け入れなければ。そういう意味での苦渋はこれから、数えきれない程味わうだろう。もう、それでもいいと思える。人が不完全な故に異常な輝き方をしたり、美しかったり、脆い部分がすごく魅力的であることを文章にできたなら。完璧なものに、人をくるわせる程の魅力は絶対にない。わたしは不完全なひとの、胸が苦しくなる位こちらの情欲を誘うような色彩の瞬きとか、そういうもにたまらなく惹かれる。そういうことを書きたい。それが今書きたい話のテーマです。