ルービックキューブ

地下鉄に乗っている時に目の前のひとが随分熱心にルービックキューブをやっていてじっとその手元を見つめてしまった。かばんから手のひら程のそれを取り出して彼は次々に色を変えていく。赤から青。青から黄。何を考えてそんなにも素早く解くことができるんだろうか。何も考えていないんだろうか。駅がまたひとつひとつと遠ざかって気付いた時には私と彼の二人しか車両には残っていなかった。扉が開いたり、また閉じたりする。青から赤。赤から黄。少し骨張った、大きい手。指先はしなやかに動き続けている。ときたま、手の動きが止まる事もある。そうして何か言いたげな動きをしたあとにまた動き出して、鮮やかに世界を変えていく。私は彼が世界を変えていくのを見守っている。ふと彼が動きを止めた。数秒、数十秒経っても手は動きを止めたままだ。どうしたものかと見上げると、同じ様にこちらを見ていた彼と目が合う。
瞬間乗客が一気に乗り込み、キューブの中の世界に二人きりの私たちはもとの目的地へとただ揺さぶられていくだけなのでした。