目くらまし

新年を迎えて数時間、私は実家の最寄りのファミレスで飲みたくもないお茶を飲みながら田舎故の深夜の居場所の無さを友人と憂いていた。一体この地に住まう若者は今どこで何してんのかしらと、ただ帰りたくない気持ちだけでいっぱいだった。二年参りから帰ってきて、折角年も明け久々に遊べるというのに、ファミレスくらいしか行く場所がないなんてつまらなすぎる。そうこうしているうちに時間は3時を過ぎ、なんとなしに携帯のメモリーをあ行から全部見ていて、駅前にクラブがあることを思い出した。そのクラブはバンドの練習スタジオも併設していて、高校生の時はよく利用していた。スタッフとも顔なじみだったのでそのうちのひとりに電話をしてみたら、4時半までイベントをやっているよ、というので勢いだけで向かった。
新年の市内は何処も空いていて車を運転する身としてはとても楽だった。15分程でクラブのある駅前に着いて、その辺の進学塾の駐車場に車を停めてクラブまで歩く。入り口には数人の男女がたむろしていて、ドライバーであるが故に素面なのにもかかわらずドキドキしてきてすごく楽しくなってきた。階段をあがった正面にある受付には馴染みのスタッフがいて、エントリーをタダにしてくれた。
友人は早速ジントニックを頼んで飲みながら、スタジオ練習していたときとは様変わりしたクラブの中を少し落ち着かない様子でいた。私は私で、ここで踊ったりするなんて変な感じだなと思いながら、ジントニックを一口だけもらった。
フロアは狭いけどそこそこ人がいて、(さすがに4時だったのであまり元気ではなかったけど)かかっている音楽も悪くない雰囲気で、女二人向かい合って踊ったりした。熱気とスモークで室内はもやがかかったようにすべてが不透明で、青いビームと点滅するライトが異次元の入り口に来ている様な気持ちにさせる。こんな風に新年早々、クラブで遊べると思っていなかったし、お酒も飲めないのにこんなに楽しくてどうしよう、身体の中に不思議なエネルギーの満ちてくるのを、ひたすらに踊りながら楽しんでいた。新年の厳かな感じは一切しなくて、人が踊っているのを見たり、声をかけてくる人と話すのを楽しんで、疲れたらカウンターでぐったりしながらかかっている曲や人の声、足音なんかに耳を澄ませていた。
イベントが終わってしまったあとは、車で近くの24時間やってるTSUTAYAに行き、初日の出が出るまでの時間つぶしをした。山に囲まれた長野は日の出が遅く7時半にようやく太陽がでて、疲れ果てた私と友人は安堵のため息を飲み込みながら帰路についた。新年らしくない新年。青いもやの中を踊りながら何も考えずにかいた汗が首筋でべとついている。