くるしみは夢の中の国で味わって

眠るたびにある場所へ行くようになった。騒がしい大通りを一本はいった路地の、突き当たりにあるふしぎな扉。古いステンドグラスを抜ける橙色の光。開けたいけど、開いてほしくない、相反するきもちを飲み込みながら入るその部屋で、毎日8時間お茶を飲んで過ごす。
時が止まった部屋の中に、行き場を失ったひとの思い出が積み重なっていた。ボロボロのアルバム、ひび割れた鏡、日に焼けたポスター、枯れたサボテン…捨てない理由は「持ち主がいるから」だった。カップの底に砂糖が沈んでたまっていく。砂糖が溶けきらないことなんてどうでもいいくらいに、恋するきもちとたたかっていた。テーブルの足下には腕のちぎれた人形が転がっている。どこかで壊れたオルゴールが鳴っている。この場所にいつも来たいと思っているのに、場所がわからない。どこなのかも、今がいつなのかも。言葉少なに何かを語ってくれても、それがどういう意味なのかも理解できなかった。砂糖はカップからあふれてもの言いたげに私を見ている。
立ち上がった瞬間、椅子の背もたれの裏に手紙が貼付けてあることに気がついた。青い封筒に白い切手。宛名は間違いなくわたしで、差出人は目の前にいるひとだった。わたしに手紙を書いてくれた!その驚きと喜びで、わたしは手紙のことを忘れた。いつまでもいつまでも終わらないときの中で、時計の針を夢中でまわした。砂糖で満たされたカップを手に持って部屋の中を歩き回り、息ができないほど笑った。


夢の中の国で、くるしみはカップの底で泥のように眠っている。