繰り出す夜

言うならばそれは、ただの暇つぶしだった。意味のないこと。アナウンスが次のサービスエリアで10分の休憩をとることを告げる。乗客の何人かは伸びをして、また何人かは安堵のような、ためいきのような声をかすかに漏らした。


自動販売機で紙コップのココアを買う。人はまばらで、ひそひそ声で話し合っていた。ココアは熱くて甘い。バスの中で2時間近くパソコンを使って作業していた身体の中を駆け巡る。糖分が行き渡って何かがリセットされた感じがする。


まわりの物事が変わっていくな、と漠然と感じていた。自分の気持ちも、もちろんそれに含まれている。自分はいつも高速バスに乗っている様なもので、景色は時速80kmで移り変わっていくのを、他の誰もが知っているのだろうか。時にはその速度についていけなくなったひとと、別れなければならなかったり、自分を追い越して行ってしまうひとだっている。同じバスに乗ってる人もいる。でもどこかで降りてしまう人もいる。


そういうことを、自然に受け入れられる様になりたい。受け入れる準備ができるようになれればいい。変化しないものはなくて、どんなに大きな蝋燭もいつかは燃え尽きるという事を。花は枯れる。水は滴り落ちて、月が昇る。嫌なことばかりじゃない。多分、花はまた咲くし。


自分の変化も恐れてはいけない。変化しつつある、何処かへ繰り出そうとしている自分を止めない。新しい靴を履いて、泥だらけの道を歩くことを躊躇しない。靴は汚れたら、洗って晴れた日に干す。


段々と愉快になってきて、下を向きっぱなしでタイプするのもただただ楽しいばかりだ。例えばこれが始まったばかりだとしたら、そういう風に考えられれば、きっとそんなに嫌な事は無いんじゃないんだろうか。明日は新しい日なんだ。変化する日。自分が変化するように、働きかける日。隣の人は寝ているけれど、声を出さずに歌を歌いたい。小さく、



夜には、夜なら私は何処へでも行ける。