こいをしたひ

あの時のあれは恋だったのだなあと振り返った時、気持ちや風景が頭に流れ込んできて辛くて泣きそうになる。君の笑い方や、手の小ささやこちらを見上げてくる仕草や声や目ややりとりした手紙や放課後の教室の時間の流れ方が。何もかもが、恋と気付かぬままにもうこんなにも時間が過ぎました。
あの頃の私は何が恋で何がそうじゃないかなんて愚鈍なくらい気付けないような子どもで、給食をおかわりして喜んでたり放課後に本屋で立ち読みをするような、他の子たちが当たり前に楽しんでいる青春から遠ざかって暮らしていた。でもそれが楽しくてやっていたのでそれはそれでいいとして、それでも恋はしていた。知らないうちにしていた。会話をすることが、授業中に香り付きのペンで手紙を書く事が、帰り道を共にして色んな話をすることが何よりの楽しみだった。ふざけてほっぺにキスをした。手を繋いで歩いた。あの時の、妙な高揚感は、慣れない事をしたからじゃなくただ欲情していたんだと言われれば合点がいく。それから5年も経って酔っぱらったあの子の頬にふざけたフリをしてキスをした。多分もう会えないんだろうなと、思いながら。ほんとにこれで、恋が終わった気がした。