角砂糖をかじる

テーブルの下でこっそり手を繋ぐのが好きで幾度となく秘密の握手を繰り返した。いつだったかお茶を飲んでいて、カップの握り方さえなんだかぐっとくるものがあると思った。なんのことはない、手のほうに惹かれていたから。ひとの、内面なんて関係なくて、そのからだの一部分にひきよせられた。フェティッシュもここまでくれば恋と言っていい気がする。本をめくる、ドアをあける、文字を書く、鞄を持つ、どの仕草も捨てがたかった。心にぜんぶとどめておきたいなと思えた。
角砂糖をかじる癖が直らなくて笑われた時、あーこれがそうかと妙に納得してる自分がおかしくて後で思い出し笑いをした。恋に落ちた自分なんて後になって客観的に見なければわかんないのだ。わかんないことだらけの世の中で、角砂糖をかじると甘いということだけは確かで、その確かさを伝えたくて、トイレにいってる隙にこっそり鞄に一粒いれてやった。鞄のすみのほうに追いやられた角砂糖はそのうち荷物で潰れて粉々になって、なんだかわからない物に成り果てる。
そのなんだかわからないものを、どういう気になったかしらないけれど右手の人差し指につけて舐めるところを想像して胸をかきむしった。息ができなくなりそうな瞬間を口の中でどろどろになった砂糖と一緒に飲み込んだ。